Jリーグは今シーズンも佳境に差し掛かってきました。
国内のサッカーファンの間では専らJ1の優勝争いが注目を集めています。
しかし、ここではこうしたタイムリーな話題ではなく、Jリーグについてこれまでに何度か議論の対象になっているテーマについて取り上げてみたいと思います。
今回取り上げるのは、Jリーグに関してこれまでに何度も話題になってきた秋春制移行の問題です。
現在のJリーグは春秋制
サッカーファンの方であれば多くの方がお分かりだと思いますが、世界の主要なリーグ(特にヨーロッパ)では秋春制でリーグ戦が行われています。
そしてこれに合わせる形で、FIFAワールドカップなどの国際大会も主要リーグのオフの期間に行う形になっています。
翻って日本のJリーグを見てみると、こちらは世界の主要リーグとは違って春秋制で行われています。
しかし、現在の開催期間が定着するまでには様々な動きがありました。
と言うのも、Jリーグの前身である「日本サッカーリーグ」の時代には、秋春制を採用していた時期があったのです。
1985年度から1991年度までのシーズンがこれに当たります。
日本サッカーリーグは元々は春秋制で行っていたのですが、プロ野球のオフシーズンにリーグ戦を開催することで収益を増やすという狙いから、秋春制へ移行したのです。
しかし、その後日本サッカーリーグがJリーグへと変わっていく中で日本全国にクラブチームを作るという方針が決まると、秋春制への疑問が次々に出てきました。
一番のネックになったのは、日本海側をホームグラウンドにするクラブの多くが豪雪地帯にスタジアムを作らなければならないという問題でした。
この問題提起がなされた結果、現行のJリーグの開催期間が春秋制に変わったことは皆さんご存知の通りです。
また、その後もJリーグは細かな変更こそあったものの、春秋制自体には全くのノータッチで現在に至っています。
しかし、だからと言って秋春制移行論が全く姿を消したわけではありません。
それどころか、膨大な量の海外サッカーの情報が日本に入ってくる中で、一時期よりも議論が過熱している感すらあります。
現在でも、Jリーグの秋春制移行については賛成派と反対派が様々な場所で議論を戦わせています。
ここ最近のJ日程って、ウィンターブレイキングとサマーブレイクを入れた秋春制と試合日程は大差なくなってきてる。2月〜4月の間の試合が、どれくらい雪の影響を受けるか実験している感じもする。東京のアウェイ8連戦も、その実験だったりしてw
— みたけ@子連れ一等兵(KFG) (@mitake1999) November 12, 2019
賛成派の主張
夏場「秋春制? 夏がなくなって勝てるんなら、あたし的にはOKです!」
冬場「秋春制? やめてよ! むちゃくちゃ寒いじゃない! 協会のバカぁ!」
ここ何年か季節が変わるごとにこの手のひら返しを繰り返すベガサポがいるらしいです。\あたしでした/
— ベガサポ阿武隈bot (@vegabukuma) November 19, 2019
Jリーグの秋春制移行を主張する賛成派の意見には、以下のようなものがあります。
・ヨーロッパの主要なリーグに日程を合わせることで、海外へ移籍しやすくなる。
・ヨーロッパの主要なリーグの日程に合わせることを主眼に組まれた国際カレンダーに対応しやすくなり、日本代表の強化にも繋がる。
・日本の高温多湿の夏季を避けられ、選手や審判の体力の消耗を減らすことができる。
・雪国がホームのクラブであっても、冬季の試合を全てアウェーで行う日程にすれば、問題なく試合を開催できる。
・天候による試合の中止は積雪が原因の場合が多いが、夏季の集中豪雨などでも稀に中止になることがある。
・春秋制から秋春制に移行した寒冷で且つ積雪の少ないデンマークのリーグ関係者からは、リーグの質が向上したという意見が多い。
一方で、日本以上の雪国であるロシアでも2012年から秋春制に移行したが、シーズンの途中に3か月以上にも及ぶ長期の中断期間が存在している。
賛成派の主張の主な論点はこのような内容です。
反対派の主張
秋春制賛成派は今すぐ札幌に来てほしい https://t.co/ijyDtBjvTD
— Nacio nino (@ELNacionino) November 15, 2019
一方、反対派はどのように主張しているのでしょうか?
以下に、主な反対意見を紹介します。
・現行の開催期間でも南米の主要なリーグには日程を合わせられるため、選手の獲得は容易になる。
・日本海側の多くは降雪量が多いため、積雪による試合の中断(ないしは中止)が頻繁に起こり得る。
・北海道・東北・北陸などの豪雪地域では冬季に開催される試合の内、半分以上でホームゲームを行えない。
仮にこれを行うとなると、ヒーターの設置や屋根の増設など、クラブ側の負担が莫大になる。
・日本と同じ春秋制である南米の選手はヨーロッパで多く活躍しており、決して現行の開催時期は海外移籍の妨げになっていない。
・秋春制に移行すると、新卒の選手にとっては開幕までの半年間が無駄になってしまう。
・Jリーグクラブの多くは屋根の設備が不十分ないし全くないスタジアムを使用しているため、雨や雪の多い時期に試合を開催すると観客の負担が大きくなる。
・秋春制に移行すると多くのスタジアムでヒーターの設置が必要になり、尚且つ練習場等にも同様の設備が必要になるが、それだけの資金力を持ったクラブはほとんど存在しない。
・雨や雪の多い時期に試合を開催するとスタジアムまでの移動が困難になることが多い。実際に、西ヨーロッパのリーグでもこうした原因で試合が中止になることが多い。
・ヨーロッパの秋春制を採用している国には日本よりも気平均温の低い国もあるが、積雪量で言えば日本の豪雪地帯の方が多い。
・Jリーグはその理念や百年構想などでアウェー3連戦を禁止しているが、秋春制に移行すれば必然的にこのルールに抵触することになる。
従って秋春制への移行を主張する意見は、「雪が降る地域はハンデを負う」「不公正なリーグ運営を行う」「Jリーグの理念を捨てる」といったことを容認する意見である。
・春秋制から秋春制へと移行したデンマークでは、リーグ開催中に長期のウィンターブレイクを挟んでいる。
デンマークの降雪量は札幌・山形の1/4以下、新潟の1/10以下の降雪量であるにもかかわらず、こうした措置が取られている。
・冬季の夜間試合の開催は気温や積雪などの影響から現実的に難しい。登記の夜間試合に出場した選手が低体温症で入院するというケースが他国でも起きている。
・FIFAは秋春制への移行を各国のサッカー連盟に求めているが、日本以外にも春秋制を継続して採用している国は多い。
・西ヨーロッパの国々でも、自国のリーグを秋春制から春秋制に移行すべきだという意見が出ている。
秋春制への移行は困難?
2017年5月、Jリーグチェアマンの村井満はJリーグの理事会において
「実行委員会の議論を理事会に報告して年度内(2017年)に一つの方向性を出していきたい」
と発言しました。
そしてその1か月後には、Jリーグの実行委員会において
「降雪地にあるクラブのスタジアムや練習場の確保、観戦環境の確保などを含めてJリーグにとってメリットが少ない」
という見解を発表しました。
これを受けて、朝日新聞は事実上秋春制移行を断念する方針を固めたと報じました。
そして、2017年の12月に行われたJリーグ理事会で、秋春制の移行を正式に見送ることが決定されました。
こうした近年の経緯から考えて、Jリーグの秋春制への移行は非常に困難になったと言えるでしょう。
おそらく、今後もこの問題に関する議論は続くはずですが、移行のデメリットが大きくメリットが少ないという状況が改善されない限りは、現行の開催期間が採用され続けるはずです。
女子サッカープロリーグは2021年の8月開幕へ(秋春制)。しれっとこういうことやるからなあ…。https://t.co/7Udis9nQRG
— pooh (@pooh_albi) November 14, 2019
まとめ
Jリーグは発足から20年以上の歴史を持つリーグですが、この20年強はそのまま春秋制の期間でもあります。
現行の春秋制を秋春制に移行すべきだとする意見はかなり古くからありました。
両者を比較検討すると、メリットよりもデメリットの方が多いとするのが現在のJリーグの立場です。
今後、未来永劫に秋春制に移行することが無いとは言えませんが、当面は現在の春秋制が維持されるものと思われます。