フォーミュラ1世界選手権(F1)は、1950年よりイギリスで始まった70年1000戦以上のレースを開催し続けているモータースポーツです。
F1マシンを走らせる為にまず必要なものは、「レーシングドライバー」「車体」「エンジン」「タイヤ」の4つ。
今回は、その中で『地面に接地していて車体を動かす役割』を担う、「タイヤ」について取り上げ、紹介します。
市販車のタイヤと、F1マシン始めレーシングカーのタイヤとは何が違うのか、また、過去にはF1タイヤを巡ってタイヤ生産メーカー間での戦争が存在して居た事も紹介します。
F1タイヤのレギュレーション
F1テストで新タイヤ規則がスタート。3色のマーキングでコンパウンド5種類を区別 https://t.co/ujb9rb7ZIR #2019年F1ニュース #F1 #f1jp #F1タイヤ #ピレリ pic.twitter.com/gzs7llgtM9
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F1のタイヤは現在1つの生産メーカーの独占供給となっており、イタリアのタイヤメーカーであるピレリにより提供されています。
タイヤのコンパウンド・種類
・ドライタイヤ
2019年シーズンはドライ(天候が晴れや曇りの時に使う)用のタイヤ種類が5種となり、それぞれタイヤのゴムの固さから「C1・C2・C3・C4・C5」と呼ばれています。
5種類の中から、3種類を各レース用に選択され使用されます。
選ばれた3種類のタイヤは「ハード」「ミディアム」「ソフト」と呼ばれています。
タイヤのサイドに色が塗られて色分けがなされ、どの種類のタイヤを装着してF1マシンを走らせているのかが判別出来る仕組みになっています。
ハード(白)、ミディアム(黄色)、ソフト(赤)という判別方法です。
ハードは「ゴムが硬く耐久性に優れる」、ソフトは「ゴムが柔らかく路面でのグリップ力が高い」という特徴が備わっております。
サーキット毎に路面の状況や温度が異なる為、相性もありますが、基本はソフトタイヤのほうが速く走れるような仕組みになっています。
各レースでのタイヤの種類は、FIA(国際自動車連盟)とピレリによってレース開催前の2ヶ月或いは3ヶ月程前に選択し発表がなされるルールとなっています。
・レインタイヤ
レインタイヤは路面が雨によって濡れてしまった場合に使用するタイヤです。
ドライタイヤは「スリック」という溝がついていないタイヤとなりますが、レインタイヤはタイヤ自体に「溝」が入っており、濡れた路面でもF1マシンが横滑りしてスピンしないように防ぐ為の作りになっています。
レインタイヤは「インターミディエイト」と「ウェット」という種類の2種が用意されています。
インターミディエイトは「浅い溝」がタイヤに加工されていて、小雨の場合や雨があがって路面が乾きつつある状況の時に使われます。
ウェットタイヤには「深い溝」がタイヤに加工されていて、雨が降っている状況で路面の水たまりを掃けさせなければいけない状況の時に使われます。
レース時に供給されるタイヤセット数
レース時に供給されるタイヤセット数は、「ドライタイヤ」が3種類それぞれ1セットとその他10セットを合わせた合計13セット分。
「レインタイヤ」が2種類それぞれ2セットづつ供給され、合計4セット分供給されます。
ドライタイヤの場合は、残る10セット分のタイヤを決められた期限までにどの種類のタイヤを何セット使用するか、FIAに申し出る必要があります。
ドライタイヤには使用義務が存在する!
ドライタイヤは、必ず各種類を使用しなければいけないルールが決められています。
予選は「Q1、Q2、Q3」の三回が行われ、「ノックアウト方式」で決勝のスタート順位が決まっていきます。
Q3まで進出したドライバーは、Q2でベストタイムを記録したタイヤで決勝スタートを行う事が決まっています。
反対に言えば、Q2で負けてしまったドライバーは決勝でのタイヤ使用が決められていない為、手持ちのタイヤのうち選んで使用する事が出来ます。
また、自由に種類を選択出来るタイヤは、予選前に行われる「フリー走行」中に合計で6セット分、レースオフィシャルに返却しなければいけないルールがあります。
よって、決勝レースで使えるドライタイヤは、
・各3種類のタイヤが1セットづつ、合計3セット
・返却していないタイヤ4セット分
以上となります。
レースの時、雨が降らずドライタイヤを使用するスタートとなった場合、必ず3種類のタイヤの中から2種類はレースで使用しなければならないルールが存在し、1回は必ずタイヤ交換をピット作業で行う事が決められています。
ルールを破ってしまった場合は失格扱いとなってしまいます。
F1タイヤと市販車タイヤの違い!「グリップ力」が鍵だった?
\ タイヤCHOICE&CHANCE /
F1日本グランプリで使用されるタイヤは3種類
白=ミディアム
黄=ソフト
赤=スーパーソフトざっくりいうと…
【グリップ力】白<黄<赤
【耐久性】赤<黄<白#F1jp pic.twitter.com/tBLxpYmWGr— 鈴鹿サーキット (@suzuka_event) September 26, 2018
F1タイヤと市販車タイヤの違いについて触れていきます。
走っているF1マシンのタイヤは、ドライの場合何も溝が入っていません。
反対に、街中で走っている市販車のタイヤは、溝が作られています。
溝が無くなると交換しなければならないと言われる事がありますが、F1マシンとは事情が違うからです。
何故、F1タイヤは溝が無いのか。
それは「グリップ」を必要としているからです。
「グリップ」とは?地面と接地する事にヒントがある
「グリップ」は、タイヤが地面に貼りつく力の事を言っています。
タイヤのゴムと路面は接地する事によって「摩擦」が発生します。
「グリップ」を強くするには「摩擦」を増やして、車体の重さを利用し強くしていかないといけません。
「グリップ」を強くしなければいけない理由としては以下の点が挙げられます。
・ブレーキの利きをよくして、コーナーで曲がる時に負担を減らす
・コーナーを曲がる時スピードを極限まで落とさなくても走れるようにする
F1マシンを早く走らせる為には、いかに「急加速・急発進・急ブレーキ」に対応していけるかどうかが鍵となります。
また、カーブも急な角度の物がサーキットには多い為、先に挙げた「急加速・急発進・急ブレーキ」が重要となってくるのです。
「グリップ」を強くし高めておく事で、より速くF1マシンを走らせる事が出来るようになります。
但し、「グリップ」を強くし過ぎてしまうと、タイヤを転がす際の抵抗が大きくなってしまい、直線のスピードが伸びなくなってしまう、タイヤの摩耗が大きくなってしまうというリスクが存在します。
タイヤの表面に工夫! ここで市販車タイヤとF1タイヤの違いが出てくる
何としてでもグリップでの課題を解決する為に、F1マシンのタイヤはある工夫がされています。
タイヤの表面がベトベトした材質で表面が出来ています。
表面が溶けベトベトになる事で、路面に貼りついて摩擦を発生させるという物です。
貼りつく為に温度を利用し、高温でゴムが溶けるように設計してあるので、粘着力が高まる事でよりタイヤが転がるような仕組みになっているのです。
反面、タイヤが冷えている時は粘着力が無いので、スピンしやすいようになっています。ドライバーはタイヤの取り扱いに注意しながらF1マシンを操縦しているのです。
市販車用のタイヤは路面がゴツゴツしているので、路面と触れている部分が変形します。ゴツゴツを「掴む」事によって摩擦を発生させているので、根本の性能が異なってきます。
加えて、市販車用のタイヤはF1マシンのようなレーシングカーと違い、毎度のタイヤ交換は大変な手間がかかる為、最初から溝のついた、雨の日でも水たまりの影響で事故を起こさないような設計のタイヤを装着しているのです。
よって、F1マシンのタイヤは市販車用のタイヤよりもナイーブで扱いが難しい設計になっています。
タイヤメーカーによる「開発競争」
【F1】ピレリ・タイヤとの契約を2023年まで延長https://t.co/YRBRGJ3qmE#F1 #ピレリタイヤ pic.twitter.com/UUc7cuSfa4
— レスポンス (@responsejp) November 26, 2018
70年も歴史が続くF1ですが、今現在のようにイタリアのピレリだけではなく、数多くのタイヤメーカーが参入し、一時期は複数のメーカーによる「開発競争」が行われていました。
70年間でF1に参入していたタイヤメーカー一覧
・ダンロップ(イギリス)
・ファイヤーストン(アメリカ)
・グッドイヤー(アメリカ)
・エイボン(フランス)
・ピレリ(イタリア)
・ブリヂストン(日本)
・ミシュラン(フランス)
ご覧の通り、アメリカやイギリスといった自動車先進国のタイヤメーカーが参入ししのぎを削っていたのです。
この中で最も長く参戦し勝利数368回を誇るアメリカのメーカー「グッドイヤー」は、1980年から90年代中盤までほぼ独占、或いは1社独占供給で君臨して来ました。
グッドイヤーの前に立ちはだかったのは、1997年シーズンに参入した日本メーカー「ブリヂストン」です。
参入当時から2000年代まで続いた「溝付きタイヤ」規定に対応し、王座に君臨したグッドイヤーを参入2年目で下してタイヤメーカーのタイトルを獲得します。
フェラーリチーム&ドイツ人最強ドライバー、ミハエル・シューマッハ選手とブリヂストンのコンビネーションで数々のタイトルを獲得していきました。
ブリヂストンに敗れたグッドイヤーが1998年を最後に撤退し、後に2001年よりフランスの「ミシュラン」が参入し、2006年まで激しいタイヤメーカー競争を展開。
当時有望な若手ドライバーであったスペイン人のフェルナンド・アロンソと、ルノーチームとミシュランはタッグを組んで、2005年と2006年、ドライバーからチームタイトル、更にタイヤメーカーとしてもブリヂストンに勝利を収めました。
2006年を最後にミシュランが撤退、2010年までブリヂストンの一社独占供給が続き、2011年よりピレリが再びF1に参入して一社独占供給を始め、現在に至ります。
まとめ
普段、タイヤに対する意識はしていないのですが、F1マシンを始めとしたレーシングカーと、市販車それぞれのタイヤの構造がここまで異なる事に驚きました。
ゴムを溶かす、或いは受け止めるという特徴の違いによって実は発揮している性能も違うという事を認識しました。
また、レースでのルールも詳細まで決められており、ただタイヤを装着して走らせているというより、戦略を見通して考えながらタイヤを選択し、管理しないとF1では勝利する事が難しいと感じました。